助成レポート 障がい児・者支援

【助成担当レポート】子育て=成長を信じること。ダウン症児の早期療育を目指す「巡回セミナー」

助成事業の概要

日本ダウン症協会群馬支部(以下「協会群馬支部」)は、1988(昭和63年)10月、ダウン症のある子どもの親の会として発足しました。子どもたちのすこやかな成長と、人として尊ばれる為の、本人及び家族の福祉の向上を計ることを目的として活動しています。
ダウン症児の発達の特徴や早期療育の必要性について、さまざまな専門職や支援者に知ってもらうため、出前式講座「ダウン症巡回セミナー」を行っています。
2013年開始当初は、会員の子が通う施設の職員向けの個別的な講座でしたが、もっと広く、支援者の一般的な知識として身に着けてもらうために、計画的に展開するようになりました。
その県内展開に対して、共同募金では長きにわたり助成しています。

 

2025年10月、伊勢崎市にて

2025年10月、伊勢崎市自立支援協議会こども支援部会の研修会で「ダウン症巡回セミナー」が実施されました。
市内の相談支援専門員や理学療法士、児童指導員や保育士など、障害福祉・児童福祉分野の専門職の方が40名も参加されていました。
市の障害福祉課がこういった研修会を積極的に企画なさっているとのことで、今回も広く周知されたようです。
協会群馬支部としても、県内の自立支援協議会(※)にこのセミナーを展開していきたいと考えています。

※自立支援協議会…障害のある方が住み慣れた地域で安心して生活できるよう、地域の関係機関が集まり、課題共有とサービス基盤の整備を連携して進めていく役割を担っています。障害者総合支援法に基づき、市町村や都道府県に設置されています。

研修会の様子

この巡回セミナーは、協会群馬支部の相談員の赤石さんご自身が、ダウン症児育児をきっかけに学んできた知見と実践の成果を惜しみなく提供するプログラムとなっています。
0~2歳乳児期の発達、3~6歳幼児期の集団生活での育ち、見る力と聴く力、ことばの発達など、健常児の育児との比較や実際の育児経験も交えながら、実感を込めて参加者に伝えていきます。
一通り講義を終えたあと、質問を受けながらさらに深めていきます。
このセミナーの目的は、支援の現場にいる方々に知識を伝達するだけでなく、今後の支援での相談先として協会群馬支部を頼ってほしい…そんな思いも込めて、つながりづくりも意識して開催しています。

日本ダウン症協会群馬支部の相談員の赤石嘉苗さん

赤石さんの知見がギュッと詰まった手作りのテキスト

セミナー終了後に具体的な相談も


 

参加者の声

◎視覚優位な支援よりも「聴く力」を養うような支援が必要。また遊びを通じて感覚を養うことの大切さなど、具体的に知ることができ、すぐに支援に活かせる情報を得られました。

セミナー中に質問くださった参加者

◎ダウン症児にはある種の頑固さがあると思っていましたが、それはご本人が納得していないから。納得できるような情報の伝え方ができていなかったからだということが分かりました。聴覚と視覚など2つの感覚を同時に使うことが難しい、という特徴がわかったので早速ご本人への伝え方を工夫したいと思います。
◎“待つ”ということを教えるのは難しいので“待ち方”(待っている間どう過ごすか)を教える、ということに目からウロコでした。

実際の支援を思い返して納得感を深めているご様子でした。

◎今日学んだことを、現場で具体的にどう生かすかを、しっかり考えていきたいです。
現場ではつい「支援者が困っていること」を話し合ってしまい、「ご本人が困っていること」「ご本人はどうか」という話にならないことも多々あります。
ご本人の障害の特徴を捉え、意思決定支援に必要な研修を、支援者に身近な市町村でぜひ今後も実施していってほしい。

市内で障害児支援事業を運営しながらさまざまな提案・提言をしている熱心な方です。


 

巡回セミナーの始まりは「壁」から

2013年に始まった巡回セミナーは、会員でもある一人の母親の切実な悩みから生まれました。
協会群馬支部では「子育て教室」を設立当初からずっと実施しています。そこでダウン症児の育児について学んだ親は、我が子が通う学校や施設などの支援現場の方々に、ダウン症児の発達や療育について知ってもらいたくて説明しようとするのですが、なかなかうまく伝えられない、という「壁」に当たります。
現場では、ダウン症の医学的な情報(例えば筋力が弱いなど)に基づく支援方法は知られていても、療育情報(どのように発達を促すか)についてはなかなか浸透していません。そのことについて現場の支援者が学ぶ機会があまりにも少ないのが原因だと思われます。専門職のダウン症に関する常識を、一人の母親が変えることは、とても難しいことです。
…であれば、子育て教室の相談員の赤石さんから直接伝えてもらうのがいいのではないか。
そういった流れで、出前式講座「巡回セミナー」が誕生しました。
 

子育て教室の始まりも「壁」だらけだった

それでは、協会群馬支部の「子育て教室」はなぜ始まったのか?
そこには、その時代の「偏見や先入観」といった大きな壁がありました。
30年ほど前、赤石さんがご自身の子育てで経験した理不尽な差別や偏見。障害児であるがゆえに選択肢がない、一方的な決めつけ。
壁にぶち当たるたび、赤石さんは冷静に学びを重ねていきました。壁を乗り越えるカギが何かあるはずだと信じて調べ、ダウン症の早期療育プログラム(ワシントン大学法)を採り入れている東京の教室に通い、ダウン症児の発達の可能性を見出していきました。
この学びを、群馬県内でも実践していきたい。そんな思いから、ダウン症児を育てる親同士の学びの場をつくりました。
 

壁を乗り越える哲学「子育て=成長を信じること」

赤石さんは、単なる情報提供や技術指導にとどまらず、親の主体性を引き出し、子育てそのものに向き合うことに重点を置いています。
◎「介助的支援」ではなく「子育て」を問う
赤石さんは、「発達の過程は障害のある子も変わらない」「子どもは遊びの中で育てるのがやっぱりいい」という考えのもと、ダウン症児がどうしたら集団の中で成長できるかを考え、実践してきました。
また、その子の不足を補う「介助的支援」と、子の成長を信じて育てる「子育て」を区分けした場合、今の時代は後者が不足しているのでは、とも感じています。
◎子育ての本筋は「成長を信じる」こと
子育て支援の現場で「お母さん、そんなに頑張らなくていいんですよ」といった言葉をよく耳にします。
育児の“作業”に追われて疲れ切った親をねぎらう優しい言葉かけである一方、親の意識をも子育てから遠ざけ、親子関係を希薄化させてしまっているのでは…と赤石さんは懸念しています。
作業や一時的な感情は誰かに委ねたとしても、我が子の成長を信じ続けるのは親の役目で、それこそが子育てだ、と赤石さんは熱く語ります。
障害ゆえに成長を信じきれない・諦めてしまうお母さんたちを、励まし続けています。
◎親と支援者の共通理解が必須
ダウン症についてさまざまな情報が錯綜し、何が正しいのか、何を信じたらいいのか、ときに親を混乱させます。難しくて、支援現場の専門職の正しさに丸投げしたくなります。
それでも、親がその子の成長を信じる、ということは手放さないでほしい。
その子の成長について親と専門職が共有できていなければ、子ども本人が混乱し、成長の機会を逸してしまいます。実際に子が情緒不安定になり自殺未遂をして、赤石さんが緊急介入したことがあるそうです。
成長がゆっくりなダウン症という障害だからこそ、親も支援者も「信じて待つ」ことが重要で、日ごろから障害と成長に関する共通理解を積み重ねていかなければならない、と改めて考えさせられた出来事でした。
 

相談員の赤石さん(右)と鬼形さん。
鬼形さんの子育ての悩みに赤石さんがどう支援していったか、と振り返りながら取材を進めました。


 

「人ひとりの人生」をそれぞれが支えている

ダウン症児を授かり、産み育て、やがて自立を促していく。
親として、その一連のなかで、医師、看護師、保健師、保育士、教師、障害分野の福祉専門職とさまざまな人たちと関わっていきます。
そのときの「壁」を少しでも減らしたい。
支援とは、何かを手伝うことだけでなく、理解し合って壁をなくそうとする相互の営みなのだと筆者は思います。
そして、実現したいのは、人ひとりの人生を包括的に支援するしくみの定着で、そのど真ん中に据えるのは「本人の成長と意思決定を支援する」こと。
その中心さえブレなければ、きっと実現すると信じて、巡回セミナーへの助成を続けています。
 

今回のインタビューの最後に、赤石さんが“こっそり”思いを語ってくださいました。
いつか、親や支援者それぞれの立場からダウン症について語ってもらう場をつくり、支援や子育ての共通理念を確立していきたい。
…ぜひ、実現してほしいです!

共同募金はこれからも、社会課題の解決に向き合い続ける活動を、応援していきます。

 

助成先情報

日本ダウン症協会群馬支部
群馬県安中市(代表者宅のため詳細非公開)
https://jdsgunmasibu.my.canva.site/

Copyright© 赤い羽根共同募金 , 2026 All Rights Reserved.